PAPERS

住宅地地価の評価の視点

株式会社さいと不動産投資顧問 代表取締役 足立 良夫

 地価上昇地点が東京だけでなく、名古屋や大阪、福岡などの大都市にも出てきたとニュースが伝えている。そんな折、日本人のコンセンサスとして全国的地価下落が決定的になってきた頃に発表した拙稿を思い出した。確か7年ほど前に「週刊ダイヤモンド」に掲載されたレポートだ。題は「不動産市場、日本人の2つの勘違い」。
 主題よりも、サブテーマのように2つ現象を述べたことが自分でも強く印象に残っている。更地が最高の価値があるとするのは誤りだ、よくても青空駐車場の収益程度の価値しかないという話と、なぜ銀座のコーヒーは高いのかという理屈の解説だ。都心や郊外の住宅地で建物の合間に歯抜けのような更地が目立ちはじめた頃だった。デフレ経済が叫ばれはじめた頃なのに、相変わらず銀座や心斎橋での一流店や高級ホテルのコーヒー一杯は1000円近くもしたまま満席状態だった。地価が高いからコーヒーが高いのではなく、多くの人が集まる所にはコーヒーを飲む需要者が多い。リッチな雰囲気を醸し出しているし、コーヒーにお客は高い価値を付けることになる。つまり店の収益力は高い。だから高い賃料を負担できる。結果として地価が高いと結論付け、一般論として不動産の価値は収益力で決まると言い切ったものだった。
 私が言いたかったのは、「卵とにわとり、いずれが先か」について「にわとりの価値は卵で分かる。つまり卵が先だ」という経済学では当たり前の理論である。にわとりを不動産の値段にして、卵を賃料や商売の純益を代理に使って語ったものだった。
 その後、この理屈が少なくとも日本の商業地では正しかったことが証明されたようだ。数年前には不動産鑑定士や一部の学者しか知らなかった収益還元法がメディアに当たり前のように取り上げられ、今や収益還元法が跋扈する時代だ。ところで住宅地ではどうだというと少し怪しくなる。住宅地の地価を語るのに賃料などの代理人に全てを任せるわけにはいかないのだ。アパートの家賃の高低で土地の価格が高いとか安いとかは言えないし、定期借地権住宅の関係者なら地代からその場の地価の算出がちょっと難しいことをご存じのはずだ。筆者は地価の専門家なのだが、答えが出せずにずっと苦しんでいた。住宅地の地価には、中途半端な代理人しかいないようなのだ。とするとあとは、住宅地そのものの需要を探るしかないだろう。
 最近、難問解決のちょっとした糸口を見つけた。「人口減少社会の設計」(中公新書、2002年6月、松谷明彦・藤正巌共著)に、市町村の人口構造の変遷からその都市の経済を探る項目がある。ここ3年間の年齢層別の増減と日本全体のその増減との格差から分析対象となった市町村の現状を推測し、9つに分類している。大阪近郊の都市も掲載されている。その分類がまさにその都市に対する私のイメージと一致するのだ。驚いた。面白い。卵であるはずの賃料には、にわとりさんの住宅地地価を示す実力が少し不足しているが、人口や世帯数の変遷やその分析によって補えるなと直感した。需要を把握するための指標のひとつになりそうだ。
 ヒントをひとつ見つけると次々に違うサポーターが登場する。ウェブ上で何気なく検索して見つけた「平成15年住宅需要実態調査結果」(国土交通省住宅局)もそのひとつ。かなり詳細なアンケート調査の結果である。住宅需要者の意識調査総合版というに値するものだ。意識調査だから意識自体は数値では表されていないが、集計結果で数値化されている。5年おきの調査なので平成10年、5年、昭和63年、、とあるのだから変遷も把握できる。
 賃料などの代理変数と人口や世帯の変遷や動態分析という方法と需要者意識調査からだけでは、住宅地の地価の全てを解析することはできないだろう。しかし、いままでよりも緻密に、より正確にすることは可能だと信じる。さあ、やる気になってきた。現在、商業地では収益還元法万能の時代(筆者は若干懐疑的だが)、じゃ、住宅地の需要分析重点戦略のスタートの時だ。

(平成16年11月近畿圏定期借地借家権推進機構へ寄稿レポート から)