PAPERS

土壌汚染と土地価格

土壌汚染と土地価格
(社)日本不動産鑑定協会
調査研究委員会基準検討小委員会
土壌汚染対策ワーキンググループ
座長 足立良夫

鑑定協会の対応

 日本の不動産鑑定業界で土壌汚染に注意が払われるようになってからの歴史は比較的浅い。環境問題と土地価格の関連での議論の一部として先駆的な不動産鑑定士による研究がはじまったのが、平成4、5年になってからと記憶する。鑑定協会での組織的な研究成果が出されたのが、平成13年5月の(社)日本不動産鑑定協会(以下「鑑定協会」と略す。)近畿地域連絡協議会の調査研究委員会の報告書が初めてである。このような研究成果の蓄積も少なく、鑑定評価としての実践も乏しい状況で、土壌汚染対策法の制定(平成14年5月29日)に呼応するように、同年7月3日に改正された不動産鑑定評価基準(以下「新鑑定基準」と略す。)の主な6つの改正点のひとつに「物件調査の拡充」があり、価格形成要因として主なものの例示に土壌汚染に関わる項目が公式に表示、追加されたわけである。
 具体的には、その新鑑定基準の留意事項に、「土壌汚染が存する場合には、汚染物質に係る除去等の費用の発生や土地利用上の制約により、価格形成に重大な影響を与える場合がある。」とされ、土壌汚染が存在する場合には不動産の価格に影響がある場合があることを明記している。加えて、土壌汚染対策法の規定上での規制に係るか否かを特に留意するべきとしている。
 鑑定評価実務への対応が遅れぎみの状況であったため、鑑定協会では新鑑定基準公表後直ちに土壌汚染と鑑定評価との関わりを検討する組織を起ち上げることとなった。鑑定協会内の調査研究委員会基準検討小委員会に土壌汚染対策ワーキンググループ(以下「土壌汚染対策WG」と略す。)を組成、土壌汚染に係る鑑定評価上の運用指針を作成するための検討を開始した。活動成果の第一段として、平成14年12月末に鑑定協会会員に対し「土壌汚染に関わる不動産鑑定評価上の運用指針I」(以下「運用指針I」と略す。)を発行した。
 続いて、平成15年8月には、運用指針Iの解説と運用実績の調査等を目的に全国研修会を行い、運用指針Iの徹底を企図した。不動産鑑定士にとり土壌汚染への関心は高く、研修会で多くの質問等が出され、かつ運用上の問題点の提起も多かった。
 そこで、土壌汚染対策WGでは、運用指針Iの改訂と土壌汚染調査と対策工事の具体的な事案の調査分析等の必要性を認識することになった。更なる段階の運用指針IIの策定に着手、社団法人土壌環境センター(以下「GEPC」と略す。)の協力を得て、土壌汚染調査と対策工事にかかる費用について調査・研究を行い、サンプル的なものではあるがいくつかのケースでの例示ができることになった。これらの成果を活用し、平成16年10月に「土壌汚染に関わる不動産鑑定評価上の運用指針II」(以下「運用指針II」と略す。)を発行、直ちに鑑定士向けに全国研修会を開催することになった。

運用指針Iの発行の趣旨

 新鑑定基準公表後、土壌汚染に関し、土壌汚染という事象をいかに調査すればいいのかということ、「存在する」、「存する可能性がある」とか「存在しない」などを不動産鑑定士が独自に判断できるのかということに感心が高まってきた。
 「土壌汚染の状態の有無の判断」の具体的基準についての指針提示の要請が強まってきた。中でも喫緊の課題として、鑑定評価実務上で依頼を受けた対象不動産のケースとして多いと思われる「存しない」と判断できる基準の提示を全国の不動産鑑定士等から強く求められてきたわけであり、かかる要請に対応するべく発行したのが運用指針Iである。
 運用指針Iの主たる目的は、土壌汚染について現時点での一般的な不動産鑑定士等の調査能力のレベルに鑑み、当面期待される不動産鑑定士等の「平均的調査能力」を示すことで、不動産鑑定評価上の土壌汚染という価格形成要因に関わる「調査責任の範囲」を明確にすることである。そして、この平均的調査能力を十全に活用することで、土壌汚染調査に関わる専門家(土壌汚染対策法上の指定調査機関と一致すると考えてよい。)に調査を依頼することもなく不動産鑑定士等独自に「土壌汚染がない」と判断できる場合を示すことにあると言ってよい。
 また、不動産鑑定士等独自では「土壌汚染がない」とは判断できない場合の原則的な鑑定評価上の評価手順(主に付加条件の設定について)をフローチャートなどで示すことで、新鑑定基準における土壌汚染という価格形成要因への評価上の対応とその理解を求めることとしている。

鑑定評価上の土壌汚染の定義

 土壌汚染の調査や有無の判断基準等の指針を作成するにあたり、確定しておかなければならないのが鑑定評価上の土壌汚染の定義である。新鑑定基準とその留意事項に土壌汚染の明確な定義はなされていない。留意事項の内容には土壌汚染対策法の規定上での規制がかかるか否かにかかる記載が多い。さらに記載を詳細にみると「土壌汚染対策法で規定された土壌汚染の有無及びその状態に関しては、対象不動産の状況と土壌汚染対策法に基づく手続きに応じて次のような事項に特に留意する必要がある。」「@ 対象不動産が、土壌汚染対策法第3条に規定する有害物質使用特定施設に係る工場又は事業場の敷地を含むか否か、又は同法の施行の前に有害物質使用特定施設に相当する工場又は事業場の敷地であった履歴を有する土地を含むか否か。」とあり、この点に注目しなければならない。新鑑定基準にいう土壌汚染は、土壌汚染対策法(同法附則第3条経過措置で、同法の施行前に使用が廃止された有害物質使用特定施設に係る工場又は事業場の敷地であった土地については、同法の適用外とされている。)の適用外の過去に存在した有害物質使用特定施設にかかる土壌汚染という事象をも対象に含めているわけである。
 運用指針Iでは、新鑑定基準及び留意事項に即応して、「土壌汚染」を個別的要因の一つとして、価格形成に大きな影響がある有害物質が地表又は地中に存することをいうと定義している。ここでいう「価格形成に大きな影響がある有害物質が存する」とは、鑑定評価実務上は、原則として土壌汚染対策法第2条に規定されている特定有害物質に加えて各自治体の条例等及びダイオキシン類対策特別措置法において対象とする有害物質が各法令等の基準値を超えて存在することを指すものとした。
 鑑定評価において考慮すべきは、価格形成に大きな影響がある土壌汚染の有無である。したがって、自然に由来するものも含み、土壌汚染対策法等の法や条例等による調査等の義務がないことのみをもって、「土壌汚染がない」ということはできないこととしている。

独自調査の概要と意義

 土壌汚染調査の専門家に依頼することなく不動産鑑定士等がその平均的調査能力を十全に発揮して行うの土壌汚染の調査(以下「独自調査」という。)の概要は、下記(1)、(2)、(3)のとおりである。下記独自調査を遂行し、不動産鑑定士等が判断するのは、この3つの調査をもってしても「土壌汚染に係る端緒すら見いだすことができない」、つまり「端緒すらないこと」をもって「土壌汚染による価格形成への大きな影響がない」という判定ができるということであり、この判定により「土壌汚染という価格形成要因を除外して」鑑定評価を行うことができる。つまり鑑定評価上では土壌汚染が存しないとの扱いになるわけである。しかしながら、「存在しない」というには「絶対に存在しない」ということの判断を目的にしているわけではない。くどいようであるが、調査の結果、土壌汚染の存在の端緒の確認ができない場合に、土壌汚染が不動産の価格形成に大きな影響を与えることがないと判断することを目的としていることに留意していただきたい。

(1) 公的資料調査
 運用指針Iでは、公的資料調査を不動産鑑定士等の独自調査事項と分けて記載しているのは、公法上の規制にかかる価格形成要因の調査は、不動産鑑定士等にとって鑑定評価を行う場合、常に必須項目であり、土壌汚染対策法や水質汚濁防止法等の土壌汚染に関わる公的な資料の調査を特別扱いする必要がないからである。つまり、鑑定評価対象が土地に関わるものであれば、対象不動産に関わる公法上の規制は必ず調べることである。運用指針Iにあえて記載したのは、従来の鑑定評価実務で土壌汚染に関わる規制を調査することになじみがなかったからである。
 具体的な調査法令等として、土壌汚染対策法、水質汚濁防止法、下水道法等やこれらに係る条例等を例示し、その規制に関わるか否かの調査することとしている。「土壌汚染が存在しない」と判断するためには、調査法令等において、既に規制の対象とはなっていないということが必須であり、何かしらの規制対象下にあれば、「存在しない」とは言えず、それ以降の詳細な調査等が必要なときは他の専門家(土壌汚染対策法の「指定調査機関」が該当する。)に依頼するべきとしている。

(2) 不動産登記簿にかかる調査
 必須調査事項として不動産登記簿の調査を挙げている。建物表題部の種類、甲区の所有者名、乙区なども確認し、工場用途の推測等により土壌汚染の可能性の推定に用をなす。
 また、閉鎖登記簿の確認も必要であり、過去の経緯から工場等の用途の推定等も行うことができる。
 登記簿の調査により、対象不動産が工場用途と把握された場合には、土壌汚染の存在を否定する根拠があるケースを除いて、汚染の可能性が大きいとの判断となる。それ以降の判断は指定調査機関に委ねることにならざるを得ない。
 登記簿調査は過去どの程度まで遡ればいいのかということについては、調査資料の重要度で並列的な意味がある住宅地図等の精度や入手可能性から鑑みて、昭和四十年代が一応の目安となるとしている。

(3) 住宅地図やそれに類する地図等の調査
 登記簿の調査だけでは、未登記のものや登記上用途の判別が困難なものもあるので、住宅地図等の確認により、調査時点および過去に遡っての調査を必須としている。地図だけでなく地元地誌や商工会議所録等も追加的調査事項とし参考となることを示している。
 以上の3つの項目を不動産鑑定士等の必須調査としている。この調査内容は指定調査機関で一般的に使われる用語としてのフェーズ1(phase1)の基礎段階である現地踏査を伴わない「地歴調査」とか「資料調査」とほほ一致する。運用指針Iは、3つの必須調査をもって、「土壌汚染の端緒が確認できない」と不動産鑑定士等が自ら判断できる基準を提示しているのであって、評価対象土地の土壌汚染の可能性を本質的、科学的に判定する基準ではないことに十分に留意していただく必要がある。
 運用指針Iには追加的調査として、ヒアリング調査と現地調査並びに航空写真調査等を提示している。前記必須調査にヒアリングと現地調査(踏査)を加えれば、指定調査機関によるフェーズ1調査とほぼ同一レベルである。ヒアリング、現地調査ともにかなりの経験と実績を要するものであり、的確、精緻に行えば、土壌汚染の有無の判断の精度はかなり高い。しかし、現時点でそこまでの精度を不動産鑑定士等に求めることはできないというのが、鑑定業界も含めて、一般的に一致した見解であろう。

運用指針Iの発行後の対応

 暫定的な措置として発行した「運用指針I」であったが、土壌汚染と土地価格に関連した内容の指針としては本邦で始めてのものであったので、鑑定業界のみならず不動産関連業界、官公庁からも広く注目を集め、「公表」扱いを受けることになった。
 鑑定業界においても、運用指針Iの指示により鑑定評価を行う場合には、原則として不動産鑑定士等による独自調査を行わなければならないことが周知されることとなった。実務運用上も独自調査を行い、鑑定評価に臨むことが徹底される中で、いくつもの問題点等が報告されることになった。
 報告された問題点を分析してみると、その本質は、「土壌汚染の端緒の存在」に関わることであった。つまり「端緒が存しない」あるいは「存する」と言い切れる場合以上に「存するか否か不明である」とか「存する可能性が高いがあるとまでは言えない」などの不明不詳や可能性の高低に関わることが多いことが判明してきた。
 土壌汚染対策WGでは、この問題を踏まえ、さらに土壌汚染地の土地価格とは鑑定評価上の正常価格と言えるかという鑑定評価の本質的なテーマ、不動産鑑定士等の専門家責任に係わる件等も並行的に議論、検討を重ねていった。また、土壌汚染の調査や浄化等の措置の費用についての一定の幅での指針を求める声に応えるために、GEPCとの共同研究も併行していくことになった。
 このGEPCとの共同研究の成果は、平成16年11月に開催した鑑定協会主催全国研修会で「運用指針II」とともに発表され、不動産鑑定士等に周知されることとなった。

運用指針IIの意義

 運用指針Iを実務に適用し、鑑定評価を行ってみると、独自調査の結果により土壌汚染の端緒だけでは価格形成要因として大きな影響を与えるか否かの判断が困難、あるいは不明であるケースが予想以上に多いことが報告された。この場合、鑑定評価を遂行するには、土壌汚染調査を専門家に委ね、その結果を待つか、鑑定評価上の条件を付すかしなければならない。
 ところが鑑定評価は、不動産の現況の姿のままを評価の対象とするのが原則であり、安易に想定上の条件を付けることは厳禁とされている。評価する土地が土壌汚染地であったとして、浄化工事がなされるか否かが決っていないのに、または決定しているが資金力に問題がある等の状態なのに、「浄化がなされたとして」や「土壌汚染がないものとして」というような条件を付けて鑑定評価をすることができない。やや専門的ではあるが、「実現性の要件」が備わっていないからである。
 土壌汚染調査を専門家に依頼するには、時間的、費用的な制約が多すぎる。評価対象地について不動産鑑定士等自らが頼むことは希有である。
 となると、価格形成要因である土壌汚染の状態は不明のままに留まり、鑑定評価を遂行することに行き詰まることになる。この状況を改善するべく検討され、発行したのが運用指針IIである。
 運用指針IIの主な内容は、3つある。(1)不動産鑑定士等の独自調査の限界、(2)市場参加者の観点からの価格形成要因の判断、(3)鑑定評価書の説明責任を果たすための不明事項等に関わる記載方法とその例示、である。
 (1)の不動産鑑定士等の独自調査の限界とは、この独自調査でわかるのは、鑑定評価上でだけ通用する土壌汚染の端緒の確認に過ぎず、専門調査機関が行う土壌汚染調査による結果のような、土壌汚染の存在のおそれや実際に存在するか否かの判定を証明するものではないという意味である。なお、(2)と(3)は、鑑定評価理論に特化した専門技術的な内容であるので、拙稿では割愛させていただく。

土壌汚染地の鑑定評価

運用指針I、IIについて記述させていただいたが、両指針とも簡潔に言い表すと土壌汚染の存しない(元は存在したが現在は存しない)土地(以下「非汚染地」と略す。)の鑑定評価ができる場合を明示したものである。土壌汚染に関わる鑑定評価というべきは、「土壌汚染地」に関わるものである。以下、土壌汚染地の鑑定評価についてその基本的な考え方、鑑定評価手法を述べさせていただく。
 実は、土壌汚染対策WGだけでなく、鑑定協会内部で議論が整理できていない問題がある。それは、土壌汚染地の鑑定評価で求める正常価格(現実の市場下での合理的な市場で成立するであろう価格)は、土壌汚染地の浄化措置(除却、原位置浄化)だけを前提としたものなのか、それとも浄化措置以外の措置(立入禁止、覆土、舗装等)も含めて広く前提条件を考えるべきなのかということである。この議論を展開する紙面の余裕はないので、この稿では、浄化措置だけを前提としていくことにする。

(1)土壌汚染地の鑑定評価における3つの構成要素
前記で記載したように、浄化措置を前提とする土壌汚染地の鑑定評価上の価格形成要因に関わる主たる構成要素は、以下のABCの3つである。
A. 非汚染地の土地の価値
B. 浄化方法・費用・期間
C. スティグマによる減価

(2)鑑定評価手法適用の基本的な考え方
鑑定評価手法適用の基本的な考え方としては、後述する浄化費用等控除方式、取引事例比較法、収益還元法及び開発法等の各手法ごとに、土壌汚染地の要素である浄化費用、スティグマを考量して求めた各試算価格を調整して「土壌汚染地の価値」を求めるもの(以下「原則的評価手法の適用方法」という。)である。しかしながら、現時点での資料収集の制約、土壌汚染地の取引や調査措置の事例収集・蓄積・分析が不足している等のために土壌汚染地について取引事例比較法、収益還元法、開発法の適用が難しい状況にあると言わざるを得ない。
そこで、土壌汚染対策WGで提示(平成15年8月全国研修テキストに記載)した「浄化費用等控除方式」だけの適用が暫定的であるが、現時点で適用可能な土壌汚染地の鑑定評価手法と言えるであろう。
浄化費用等控除方式とは、「非汚染地としての価値」を通常の鑑定評価と同様に原価法、取引事例比較法、収益還元法及び開発法等の手法を併用して求めた後、浄化費用、スティグマを控除することによって「土壌汚染地の価値」を求める評価手法である。この方法は、原価法の一種とも考えられる(注)。
(注)原価法は、再調達原価から減価修正を行って価格を求める方法であり、浄化費用等控除方式も、土壌汚染のない土地の価格から汚染による減価の修正を行うという方法であるので、方法の類似性がある。しかし、土壌汚染のない土地の価格が、原価法における再調達原価と同じ性格の価格とはいえない。
繰り返しになるが、土壌汚染地の鑑定評価は理論的には、各方法の適用において土壌汚染の影響を考慮する「原則的評価手法の適用方法」が原則である。しかし、各試算価格に浄化費用とスティグマを反映させることは、かなり困難であり、3方式(原価法、取引事例比較法、収益還元法)及び開発法で非汚染地価格を求めた上で、その価格から浄化費用とスティグマを控除する浄化費用等控除方式のみの適用を現状では容認せざるを得ない。

土壌汚染地の各鑑定評価手法適用上の留意点等

(1) 浄化費用等控除方式
前記のAからBとCを控除すること(土壌汚染地価格=A−B−C)により求める手法である。A、B、C、3つの価格構成要素を各々別個に査定していくという意味で一般にわかりやすい手法である。
なお、低地価水準地域において深刻な汚染状況が確認できた場合は、A<Bとなる場合がある。こういった場合は、対象不動産に対して効用や有効需要を認めることはできないため、具体的な価額を鑑定評価額として求めることはできないという欠点がある。

(2) 取引事例比較法
現時点では、鑑定士が評価に利用可能な土壌汚染地の取引事例データ等は、ほとんど入手ができないので、実務上の適用は、当面不可能と言わざるを得ない。
取引事例として採用するためには、汚染の状態、浄化工事計画・費用・期間等に関する報告書等の内容を確認し、標準化する必要がある。

(3) 収益還元法
新鑑定基準において、収益還元法は、 「収益価格を求める方法には、一期間の純収益を還元利回りによって還元する方法(以下「直接還元法」という。)と、連続する複数期間に発生する純収益及び復帰価格を、その発生時期に応じて現在価値に割引、それぞれ合計する方法(Discounted Cash Flow法(以下「DCF法」という。)がある。」と定められている。純収益、還元利回り、復帰価格、割引率等を求めるのに必要十分な土壌汚染を反映した根拠データが収集できれば、適用可能であるが、現時点では、資料の制約から適用が難しい。
土壌汚染の要素を如何に反映させるかは、種々方法がある。例えば、支出項目に浄化費用、収入項目に土壌汚染地であることの市場性のマイナス分を支払賃料等に反映させる。還元利回りや割引率に土壌汚染地であることのリスクを織り込む。空室率等を調整する方法も考えられる。2手法の比較では、浄化スケジュールを反映できるという観点からは、直接還元法よりDCF法の方が説得力があり有効性が認められる。

(4) 開発法
開発法は、評価対象地の土壌汚染の状態に応じて、浄化費用、浄化期間を支出項目に反映し、分譲価格に土壌汚染地であったこと(住宅地の場合は通常、浄化後での分譲しか考えにくい)のスティグマ等の減価を反映させることが可能な点で有効である。また、工場跡地が分譲マンション開発されるケースが比較的多いこと等から、土壌汚染地の鑑定評価に活用可能性が高い手法といえる。
鑑定評価の過程が明示でき、その点説得力のある手法であるが、市場においてスティグマを含む土壌汚染による減価を反映した分譲価格事例が極めて少ないとみられること、及び土壌汚染を反映した説得力のある投下資本収益率を求めることが困難であること等の鑑定実務上の問題点である。

<参考文献等>

○「不動産鑑定評価基準および留意事項」、平成15年1月1日施行、国土交通省
○「要説不動産鑑定評価基準(改訂版)」、平成15年4月、鑑定評価理論研究会編著、住宅新報社
○「土壌汚染に関わる不動産鑑定評価上の運用指針I」 平成14年12月、(社)日本不動産鑑定協会調査研究委員会基準検討小委員会土壌汚染対策WG
○「土壌汚染に関わる不動産鑑定評価上の運用指針II」 平成16年10月、(社)日本不動産鑑定協会調査研究委員会基準検討小委員会土壌汚染対策WG
○土壌汚染問題と鑑定評価」、平成13年5月、(社)日本不動産鑑定協会近畿地域連絡協議会調査研究委員会
○「土壌汚染に関わる不動産鑑定評価について」(研修会テキスト)、平成15年8月、(社)日本不動産鑑定協会

(「基礎工」平成17年6月号掲載レポートから)